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デジタルメディアの時代に、綱渡りにイノベーションが起きた。「スラックライン」の女王、福田恭巳(ゆきみ)さんインタビュー。【後編】

「スラックライン」とは幅5cmのナイロンのベルトと、その上を歩いたり、跳んだり、回ったりする遊びや競技のことである。綱渡りは昔からサーカスで定番の演目であるが、一般人がロープの上で長時間バランスを取ることは難しく、連続で跳んだり回ったりするのは不可能だった。

ドイツのスラックラインのブランド、Gibbonの創業者は、綱を渡るのを見たり自分でやったりする時の「ハラハラ」感を、もっと多くの人に楽しんで欲しいと考え、綱を様々な幅のベルトにして実験をした。「5cm」。それが最も長く乗っていられる幅ということを突き詰め、2007年発売。「スラックライン」は一気に大衆スポーツに拡大し、日本でもいまどんどん競技人口が拡がっている。

インターネットは、コンテンツの消費の仕方だけでなく、お金の稼ぎ方や、人の生き方そのものを急速に変化させていっている。そんな時代において、スポーツは誰がどうやって楽しむものになるのだろうか?プロスポーツ選手という職業はどんな仕事になっていくのだろうか?

Interview by Yoichi Goto | Photos by Naomi Okubo

2016.04.22[Fri]

2013年に日本人初のスラックライン世界チャンピオンになり、現在世界ランキング上位10人のうち約半分を日本人が占める中、全日本選手権を2011年から5連覇している、福田恭巳(ふくだ ゆきみ)さんのインタビュー。

デジタルメディアとスラックラインの関係について聞いた前編に引き続き、プロスラックラインライダーとしての生き方、新しいスポーツが日本で広まるために必要なことについて話を聞いてみた。

スラックラインで食べていけるんですか?

後藤:パフォーマンスする事と、試合で勝つこと、両方とも「プロスラックラインライダー」として稼いでいくためには重要だと思うんですけど、正直、今スラックラインで食べていけるんですか?

福田:厳しいですね。特に日本ではスラックラインだけで生活するのはかなり厳しいです。私は今もバイトして遠征費を稼いでます。今、子供たちにスラックラインを教えてて、進路の相談を受けることもありますけど「とりあえず就職しな」とか「私みたいにスラックラインだけで生活しようとするのはやめたほうがいい」としか言えないですね。

私は少し特殊な環境でスラックラインをやって来ましたし、幸運にも全日本選手権で5連覇して、世界ランク1位もとって、テレビCMも出させてもらって、プロスラックラインライダーになりましたけど、それでも好きなスラックラインだけでは生活出来なくて、バイトしてますから。子供たちにお勧めは出来ないですよね。(笑)ちょっと悲しいですけど。

後藤:福田さんがプロになるまではどういう経緯があったんですか?

福田:大学に通ってる間にスラックラインにはまって、2011年に日本一になって、海外の大会に招待されたんです。その遠征には2・3週間かかるんですけど、大学が授業を一回でも休むと卒業出来ないところだったんです。それでスラックラインの資料をもって、大学の先生全員に、こんなスポーツで、世界大会に出ることになって、っていうのを説明して回ったんです。夏休みも大学に来て、やっと単位を認めてもらって遠征に行けました。

後藤:すごい行動力ですね。(笑)

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福田:初めて世界大会に出たら、まあやっぱり上には上がいて、世界一にはなれなくて。そうしたら、もっと上手くなりたい、もう一回海外で試合に出たい、っていう気持ちになって、就職せずにスラックラインに専念する生活を選びましたね。

親が経済的に余裕があるわけでも無くて、妹も2人いるのにも関わらず、やっと行かせてくれた大学なんですけど。

後藤:保育士になる予定だったのが、いきなり「スラックラインのプロになります」と……。

福田:両親が理解してくれたのは大きかったです。いつも「人と同じじゃなきゃいけないわけじゃない」「自分のやりたいことをやればいい」って言ってくれていたので。むしろ、人がやっていないことを「面白そうだけどやってみたら?」って勧めてくるくらいだったので、私が世界に行きたい、海外の大会で勝ちたい、って言い始めて、「この子はもう就職しないな」って思ってくれました。(笑)

大学の先生とか親の理解もあって、最初に日本一になった時はまだ私が若さでも実力でも頭一つ抜けていたっていうタイミングの良さもあって、Gibbonっていうスラックラインのブランドのインターナショナルの契約選手になって、それでもまだ遠征費を稼ぐためにはバイトしないといけない。

それから、スラックラインの認知度が上がってくるにつれて、練習場所も減ってきました。特に去年、それまで練習していた公園とか、練習場所が次々とスラックライン禁止になっちゃいました。

そういう事全てひっくるめて、やっぱり今は後輩に「プロスラックラインライダー」になるのは勧められないです。

「楽しむこと」「自由なこと」スラックラインが教えてくれるスポーツの本質

後藤:海外のトップ選手はどうやって生活してるんですかね?

福田:基本的に何も考えてないですね。(笑)

後藤:(笑)

福田:何にも縛られずに、ただ好きな場所で好きな時に、スラックラインをして生活することを「スラックライフ」って言うんですが、みんな「スラックライフが送れればハッピーじゃん!」みたいな感じです。

後藤:「スラックライフ」っていい言葉ですね。

福田:「スラックライフ」 は、アンディー・ルイスっていう男子の世界チャンピオンが作った言葉なんです。彼は2012年のスーパーボウルのハーフタイムで、マドンナの歌う前でスラックラインをやって有名になったんですけど、その後ワールドツアーに同行するのは断ってます。自分の好きな時に乗れなくなっちゃいますからね。今は文字通り「スラックライフ」を実践しています。

こないだ父親の知り合いが、 すっぽんぽんでパンツも履いてない男性が、岩場でスラックラインをしてるYouTubeの映像をシェアしてくれたんですが、それがアンディーでした。(笑)

父親が、「それ、娘の先輩です」って。

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後藤:福田さんはスラックライフ送らないんですか?

福田:本音で言うとそりゃ送りたいですよ。(笑)そもそも何でスラックラインをやってるのかっていう所に戻ったら、自分が楽しいから、自分が上手くなりたいから、他人から「おお!」「すごい!」って言われたいからだけですから。

私は、「今日は360度回る技が出来た、でも反対向きに回って戻ってくるところまではいけなかった。」「次はあれをやってみよう、これをやってみよう。」って考えながら技を覚えるのが楽しくてやっているので。上手くなって、海外の試合に出れるようになって、次の遠征費を稼ぐためにバイトしている時も、純粋に自分がやりたくてやっていたので、楽しかったですよね。

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ただ、今は上手くなるとか1位になるっていう事だけじゃなくて、スラックラインで稼ぐ事とか、日本でスラックラインを広めていく事、子供たちに道を作ってあげる事をやっていかなくちゃいけないですし、そういう期待をされてると思ってます。

それはプレッシャーに感じる事もあるし、不安もあります。アンディーの言ってる「スラックライフ」とは今はちょっと違うかも知れないですけど、 やっている事は自分にとってベストだって思ってて。スラックラインをやりたいから決めた道ですし、意地というか、プライドですかね。

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後藤:なるほど。今回お話を伺っていて思うんですが、「スラックライフ」を実践してYouTubeで世界に伝えてるアンディー・ルイスとか、5cm幅のスラックラインを発明したGibbonの創業者とかが一番根っこに持ってるのが、福田さんの言っている「自由に楽しみたい」とか「たくさんの人に楽しさを伝えたい」っていう気持ちだと思うんですよね。

福田さんはプロだから稼がないといけないし、日本で一番になってしまったから、コミュニティ全体に対する責任もあると思うんですが、スラックラインの本質である「自由であること」とか、スポーツの本質の一つである「楽しむこと」は忘れないほうがいいんだと思います。

福田:ほんとそうだと思います。スラックラインってほんと自由なんで、下手くそでも全然いいし、ルールも制約も、こうしなきゃいけないっていうやり方も無い。私みたいに技を覚えるのが好きな人もいれば、高い場所でやるのが好きな人もいて、健康のためにやってる人もいればキャンプで仲間と楽しんでる人もいる。自分の好きな時に、好きな場所で、好きな人と好きなようにやればいいだけなんですよね。

指導の意味もあってずっと小学生と練習してるんですが、すぐ「ユキミちゃんがこうやって練習しているから」って言うので、「いやいや、ユキミの真似するんじゃなくて、自分の思ったように、自分のやりたいようにやりな。自分がカッコいいと思った技をやればいいじゃん。」って容赦なく突き放してます。(笑)私に憧れてスラックラインをするんじゃなくて「わたしはこれが得意だから」っていう自分のスタイルを作ってくれたら、子供たちも続けてくれるんじゃないかなと思うんですよね。

同じ事を中高生にも教えていて、技術はあるのに人前へ出るのが苦手だった子に「そんなんじゃ私より上手くても勝てないからね」って言ってたら、だんだんメンタルも強くなってついに抜かれたんですよ、去年の終わりに。(笑)

10代の子たちの技の吸収の早さを見てると、時代のトレンドを作っていくのは若くて勢いがある人のほうが良いなって思いますよね。

後藤:若い人、って福田さんもまだ20代前半ですけど。(笑)

日本で新しいスポーツを広めるために必要な「説得力」

後藤:スラックラインが一時のブームとか、流行りで終わってしまわないためには何が必要だと思いますか?

福田:デジタルメディアのパワーとか、スラックラインの楽しみ方の幅の広さ、手軽さを考えると、日本以外の国ではほっといてもこのままどんどん広がっていくと思います。

日本に関して言うと、まずは練習できる場所が一つ。それから、今スラックラインは健康を維持する運動とか体幹トレーニングになる、という事で認知が広がり始めてるので、それをきちんと方法論として確立したり、学術的な研究結果の裏付けを得ることが重要ですかね。

後藤:練習場所の確保ってそんなに難しいんでしょうか。

福田:海外だとスラックラインを張ったらどこの公園でも喜ばれるんですけどね。日本ではどこでやるにも許可がいりますし、公園とか公共の場所だと近隣の方や警察と揉める事もしばしば……。 「危ない事やってる」と思われがちなので、そこは私たちが努力して、楽しさと一緒に安全なやり方を広めていくとか、そもそもスラックラインというスポーツについて知ってもらう事が必要ですね。

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後藤:他のアクションスポーツや、ストリートスポーツ、山岳スポーツのアスリートも同じ事をよく言ってますね。BMXとか、トレイルランニングとか、SUP(スタンドアップパドルボート)とか。ネットとかテレビで楽しいイメージだけが広がって、競技人口が増えても、ルールや教育システム作りが進む前に、一般の人や自治体とトラブルが起きてブレーキが掛かってしまうと。

福田:たぶん、順番で言うと、スポーツの魅力、スラックラインなら「自由な楽しみ方があること」だと思うんですけど、それを広げていくのは、そのスポーツが社会のためになりますよ、っていう「説得力」を持った後なんです。

実は、クライミングとかボルダリングが児童教育に良い効果があるっていう論文がいくつも出されていて、それが日本でも社会的に認知されています。日本の公園にボルダリングウォールが設置されていたりするのはそういう裏付けが有るからなんですよね。

教育、健康・フィットネス、他のスポーツのアスリートの体幹トレーニング、色んな切り口の可能性があるとは思うんですが、何かの分野で「スラックラインにはこういう効果があります」っていう土台を固めて見せていくのが、一時の流行りで終わらないようにするには必要なんだと思います。

  • 福田恭巳(ふくだ・ゆきみ)
  • プロスラックラインライダー
  • 1992年生まれ。千葉県浦安市出身。スラックラインの日本一を決める大会、日本オープンを2011年から5連覇中。2013年には世界ランキング1位も達成し、日本人女子で唯一、スラックラインブランドGibbonのインターナショナルライダーとして契約している。世界のスラックラインシーンを引っ張り続けるプロスラックラインライダー。
  • YOICHI GOTO
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  • 担当分野はエクストリームスポーツ。