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デジタルメディアの時代に、綱渡りにイノベーションが起きた。「スラックライン」の女王、福田恭巳(ゆきみ)さんインタビュー。【前編】

「スラックライン」とは幅5cmのナイロンのベルトと、その上を歩いたり、跳んだり、回ったりする遊びや競技のことである。綱渡りは昔からサーカスで定番の演目であるが、一般人がロープの上で長時間バランスを取ることは難しく、連続で跳んだり回ったりするのは不可能だった。

ドイツのスラックラインのブランド、Gibbonの創業者は、綱を渡るのを見たり自分でやったりする時の「ハラハラ」感を、もっと多くの人に楽しんで欲しいと考え、綱を様々な幅のベルトにして実験をした。「5cm」。それが最も長く乗っていられる幅ということを突き詰め、2007年発売。「スラックライン」は一気に大衆スポーツに拡大し、日本でもいまどんどん競技人口が拡がっている。

一部のメジャースポーツやメガイベント、オリンピックやサッカーワールドカップの商業的拡大に終わりが見えない中、トッププロから一般の人まで楽しめる、本当に新しいコンセプトのスポーツというのは実はあまり出てきていない。

メジャースポーツはこれまで20年間、サッカーにしても米4大スポーツにしても「マスメディア×チームスポーツ」の組み合わせで競技人口やファンを広げてきた。しかしスラックラインは「デジタルメディア×個人スポーツ」の組み合わせで広がっている。この、誰でも、どこでも、自由な楽しみ方が出来るスポーツには、これからのスポーツの楽しみ方や余暇の過ごし方、またスポーツビジネスのヒントが詰まっているような気がする。

インターネットは、コンテンツの消費の仕方だけでなく、お金の稼ぎ方や、人の生き方そのものを急速に変化させていっている。そんな時代において、スポーツは誰がどうやって楽しむものになるのだろうか?プロスポーツ選手という職業はどんな仕事になっていくのだろうか?

今回インタビューするのは、2013年に日本人初のスラックライン世界チャンピオンになり、現在世界ランキング上位10人のうち約半分を日本人が占める中、全日本選手権を2011年から5連覇している、福田恭巳(ふくだ ゆきみ)さん。このスポーツがデジタル・ネイティブである10代・20代を中心に世界でファンを増やし、誰も見たことのない速さで進化する秘密と共に、そんな疑問について一緒に考えてみた。

取材は福田さんの母校の東京家政大学で行いました。

Interview by Yoichi Goto | Photos by Naomi Okubo

2016.03.25[Fri]

大人がついていけない速度で進化する新スポーツ

後藤: 今日はよろしくお願いします。

福田:よろしくお願いします!

後藤:早速なんですが、僕は学生の時にヨーロッパのサッカービジネスを勉強していたり、会社の中にはオリンピックとか、サッカーワールドカップとか、何百億円というお金が動くビジネスに関わる人がいたりして、スポーツビジネスの世界を割と近くで見ているのですが、正直言ってスラックラインって、これまでの言い方で言うとまだまだ「マイナースポーツ」だと思うんです。

福田:そうですよね。言ってしまえばマイナースポーツなんですよね。(笑)

でも急速に広まってるのは間違いないと思います。象徴的なのは2012年のスーパーボウルのハーフタイムショーですかね。アンディー・ルイスっていう男子の世界チャンピオンがマドンナが歌う前でスラックラインをやったのですごく有名になりました。

ワールドカップも毎年開催されています。

日本でも、私がNTTドコモとかキョーリン製薬のCMでスラックラインをやったんですが、それを見て始めたって言ってくれる人がたくさんいて驚きますね。あとYouTubeとかで調べたら動画もいっぱいでてくるので、そういうのを見て始めたっていう声もよく聞きます。 5〜6年で新しいスポーツがこれだけ広まるってことはなかなかないと思うので、すごく可能性は感じてます。

後藤:YouTubeとかデジタルメディアって、スラックラインの世界にはどういうふうな影響を与えてるんですか?

福田:スラックラインに興味を持つきっかけになるだけじゃなくて、人が繋がったり、新しい技を勉強するツールにもなってて、競技人口の拡大に確実に大きく影響してると思います。

私がスラックラインを始めたのは、日本にスラックラインが入ってきた2009年ぐらいなんですが、その頃私はクライミングの選手として活動してて、全くスラックラインの事を知らなかったんです。そしたら当時アルバイトしてたクライミングジムにスラックラインが入ってきて、週に一回バイトの一環でやるようになりました。簡単だと思ったんですけど、最初は全然渡れなかったですね。

始めて2〜3ヶ月の時に、Gibbonの契約ライダーが、私がバイトしてたジムにイベントで来てくれたんです。そのタイミングに合わせて、mixiのスラックラインのグループで他府県から上手な人がたくさん集まりました。私もイベントに参加したんですけど、見たこと無い技をする人がたくさんいたんです。「え、スラックラインってこんな技あるの?」「バク宙できるの?」みたいな。それから、イベントが技の出し合いになって、すごく盛り上がったんですよね。そういう楽しい遊びだっていうのも知らなかったので、いろんな意味で衝撃でしたね。

そしたら、上手くなりたいって思って、ジャンプとかに挑戦したりして。それが楽しくなり始めたきっかけでしたね。

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後藤:スラックラインやってる人同士がmixiで繋がってたんですね。

福田:最初に海外からスラックラインを輸入してやり始めた人たちがいるんですけど、日本中に散らばってた人たちが繋がったきっかけはYouTubeなんですよね。東京の人がスラックラインの動画をアップして、岡山でもやってるよ、神奈川にもいるじゃん、みたいになって、コンタクトをとって繋がって。それからmixiとか、いまはFacebook、Twitterの地域のコミュニティが呼びかけあって一緒にやったり、イベントを開いたりしてますよね。

私も、ジムで知ったのがきっかけでしたけど、それからはYouTubeの動画が先生で。海外のトップ選手の動画をずっと見て、「スラックラインってこんなこともできるの?」みたいな刺激を受けて、練習して、を繰り返してましたね。

そういう練習の道具として、仲間を増やすコミュニティとして、インターネットが無かったらスラックラインなんてまったく広まらなかったでしょうね。「なにこれ綱渡りじゃん」って、みんながそう言って終わっちゃう、そういうスポーツだと思います。

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後藤:競技としてのスラックラインは10代が世界を引っ張っていると聞きました。

福田:10代の子たちの想像力っていうのはすごいですし、10代に限らず、私が想像も出来ない技を作って決められる新しい選手が世界中、日本にもたくさん出てきています。スラックラインって5cmの幅のベルトの上で跳びはねるっていうシンプルな競技なんですが、その上で「あんなこと出来るんじゃないか」「こんなこと出来るんじゃないか」って世界中のスラックラインライダーが考えて、「新しい技ができた!」ってYouTubeにアップする。そんな感じで毎日進化してますね。今の勢いを見てると、10代が中心の競技っていう事も含めて、まだまだ広まる可能性があるスポーツだと思います。

後藤:ネットに新しい動画が上がって、それを見て世界のどこかで誰かがインスピレーションを受けてまた新しい技が生まれて。動画を見て新しくスラックラインを始める人もいて。一部の地域だけじゃなくて、世界同時多発的に広がってるのが面白いですね。

福田さんが契約しているスラックラインのメーカー「Gibbon」の創業者が5cmの幅のベルトを発明したのが大きなイノベーションだと聞きました。サーカスで綱渡りの芸があったり、ロッククライマーがクライミング用ロープに乗って遊んだり、昔から「綱渡り」っていう「遊び」は世界中にあったけども、綱を5cm幅のベルトにしたことによって一気に誰でも参加できる「スポーツ」に進化したと。

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福田:そうですね。誰でも、どこでも、手軽に出来るのはスラックラインの大きな魅力だと思います。10代も多いですけど、30代・40代でやってる人もすごく多いんですよ。バスケやフットサルみたいにコートは必要無いし、街でも山でもビーチでも、スラックラインさえあれば、いろんな楽しみ方が出来ます。

綱渡りって「渡れた!」っていう達成感が楽しいポイントだと思うんですけど、スラックラインだとその達成感が味わいやすいというか、今日は2歩進めたとか、昨日より30cm長く歩けたとか、そういう達成感が誰でも比較的短い練習時間で味わえるんですよね。

5cmのベルトがあるだけ。シンプルで自由なスポーツです。

後藤:綱渡りの道具のイノベーションがたまたまデジタルメディアの時代に起きて、インターネット的というか、バイラルに進化するスポーツになってるのがすごく面白いと思いました。

福田:スラックラインの上で飛び跳ねて技を決めるのを「トリックライン」っていうんですが、技の進化が速すぎて、もう何が一番難しい技か誰もわかんないんです。「新しい」かどうかは分かるんですが、「難しい」かどうかはもう、技をやった本人の感覚とか、動画を見た人の感覚でしかないですね。それくらいトリックラインの世界はすごいスピードで進化して、広がってます。

後藤:あれ、どの技が難しいかどうか決められないと大会の時に順位付けれなくないですか?どうやってジャッジするんですか?

福田:そこが今問題で。

後藤:あ、そうなんですか。(笑)

福田:そうなんですよ。(笑)

後藤:普通のスポーツだと例えば「国際体操連盟」とか、中央の協会がルールを決めて、技の難易度にランクを付けて、大会でポイントを加算していきますよね。

福田:一応「World Slackline Federation」とかいくつかスラックラインの協会があって、そこで講習と試験を受けて資格を持った人が大会でジャッジをやるんですけど、まだ選手が若いので、経験を積んで引退してジャッジになる人ってあんまりいなくて……。ジャッジの人がスラックラインを突き詰めた人かどうかって言われるとそうではないので。ジャッジの人たちも動画とか見て研究するとかするしかないですよね。だって、進んでんだもん選手の方が。(笑)アメリカの大会だと、演技を録画しておいて、審査は後でやるっていう大会も出てきてます。

(次ページ 「魅せる」事と「勝つ」事のジレンマ)