• Facebook
  • twitter
  • rss

未来が見つかるカルチャーメディア

COTAS

未来が見つかるカルチャーメディア

menu

    • ABOUT COTAS
    • MEMBERS
    • CONTACT
    • SHARE TO

「講談社タイガ」が切り拓くフィクションの未来。小説の強度とは?【前編】

ミステリ文学は私たちの想像力を刺激する。「謎解き」という厳密な論理性を持ちながらも、ストーリー、文体、キャラクターなど、「虚構だからこそ出来る」魅力に満ちている。ミステリは、堅苦しい「文学」とは違って、変化の激しい市場にさらされながらも、自由な発想、ユニークな文体、魅惑的なトリック、魅力あふれるストーリーテリングによって、読者を楽しませてくれる。そんなミステリ・エンタメ文学の可能性を知ることは、創造性の未来を考える上で大きなヒントを与えてくれるだろう。

今回のインタビューでは、ミステリファンにとっては「伝説」の講談社文芸第三出版部(以下、文三)にて、「タイガ」という新しい文芸レーベルを牽引している栗城編集長に話を伺った。

Interview by Shusaku Hirota | Photos by Naomi Circus

2016.10.19[Wed]

廣田:講談社の文三といえば「新本格」と呼ばれるジャンルを打ち立て、日本の文芸史に残る仕事をしてきた部署だと思うのですが、その文三から、新しく「タイガ」というレーベルが立ち上りました。今日は、エンタメという、時代の流れや変化の激しい世界の中にいて、これからの小説・フィクションはどうなっていくのか、フィクションの未来について、栗城編集長にお聞きしたいと思っております。まず、最初に文三の歴史を振り返りながら、今の「タイガ」レーベルの創設にどうつながっているのか教えていただけますか?

栗城:よろしくお願いします。「講談社ノベルス」は1982年に創刊しています。その時はまだ「新本格」のレーベルではありませんでした。「カッパ・ノベルス」は1959年創刊で講談社ノベルスよりずっと長い歴史があります。松本清張さんの『砂の器』とか小松左京さんの『日本沈没』が「カッパ・ノベルス」から出ています。うちは徳間書店や祥伝社よりも後で、かなりの後発レーベルとしてスタートしました。その時の第一回の配本は何だったと思いますか?

廣田:当然、ミステリーの作品でしょうか?

栗城:実はミステリー以外の作品も出しているんです。阿佐田哲也さんの『ばいにんぶるーす』とか。第二回には五木寛之さんの作品など、いわゆる中間小説も出していたんですよ。「新本格」は1987年の綾辻行人さんの『十角館の殺人』でのデビューが起点になります。来年(2017年)は「新本格」がとうとう30周年になります。綾辻行人さんがデビューされた後は「京大ミス研」の法月綸太郎さん、我孫子武丸さん、麻耶雄嵩さんらが続けてデビューされました。同じような流れが東京創元社でもあり、有栖川有栖さんがデビューされました。講談社の宇山日出臣さんと東京創元社の戸川安宣さんという編集者が同時代にいたことが、本格推理の作品がたくさん出て、ひとつのムーブメントとなるきっかけだったのだろうと思います。

廣田:その二人はどのような仕事をされていたのでしょうか?

栗城:お二人がそれぞれ多くの新人ミステリ作家のデビューを手がけられて、分野への注目が集まりました。宇山さんは、商社から中途で出版業界へ入られた方なのですが、中井英夫さんの『虚無への供物』を文庫で出したかったというのが動機だそうです。私は、その時はそうとは知らず『虚無への供物』の文庫版をまんまと読んでしまっていました。

廣田:それは栗城さんが学生時代にですか?

栗城:学生の時です。たいへんな衝撃を受けました。後々三一書房版の初版を宇山さんからいただきました。今も大切にしています。

廣田:それがきっかけで栗城さんも講談社を目指したのですか?

栗城:そうだったらかなりいい話なんですけど。私も、宇山さんと同じで、講談社では多くない中途入社なんです。今は、ずいぶん増えましたが、当時は少数でした。私は最初、国書刊行会というマニアックな書籍を出している会社にいて、中途で講談社へ入って、9年ほど『ミッフィー』などの絵本を編集していました。今、自分がまさかこうして「新本格」を語る立場になるとは思いもよりませんでした。

廣田:学生時代に読んで衝撃を受けたことがあったのでしょうか?

栗城:そうですね。どちらかというと「新本格」というよりは「幻想と怪奇」の方が好きだったかもしれません。夢野久作とかE.T.Aホフマンとか。

f6_kodansha011
廣田:栗城さんはいつから「新本格」というか、今の部署にいらっしゃるのですか?

栗城:2001年です。最近といえば最近ですが、最近でないといえば最近でないですね(笑)

廣田:その頃はどんな作家さんを担当されていたのですか?

栗城:森博嗣さん、京極夏彦さん、恩田陸さん、有栖川有栖さん、歌野晶午さんなどたくさんの方を担当させていただきました。

廣田:かなり濃くも魅力的な先生たちですね!

栗城:そうですね(笑)私は、唐木厚さん(編集部注:新本格第二世代を支えた編集者)から引き継いだ作家さんが多いと思います。

廣田:その間に色々なレーベルも出てきていると思うのですが、栗城さんは2001年から現在までだと、おおまかにどういうレーベルを担当されていますか?

栗城:文三では、現在「講談社ノベルス」の他に単行本と「メフィスト」、それから「講談社BOX」、「X文庫ホワイトハート」、「講談社タイガ」を刊行していますが。

廣田:たくさんありますね!ミステリ初心者向けに、今挙げていただいたレーベルの構造やそれぞれの特徴を教えていただけますか?

栗城:「ホワイトハート」は女性向けのライトノベルです。主にファンタジー、BL、ライトミステリーを刊行しています。「十二国記」シリーズとか「欧州妖異譚」シリーズなどが代表作でしょうか。「講談社ノベルス」は先ほども少しお話ししましたが、書下ろしミステリを中心とした新書サイズのジャンル小説です。「メフィスト」は年三回発行している小説誌で、今年から電子書籍のみの刊行になりました。「講談社タイガ」は昨年創刊した「講談社ノベルス」の兄弟レーベルです。「講談社BOX」は──。

廣田:オタクカルチャーと文学が融合した文芸誌といった形でしょうか?

栗城:それは多分「ファウスト」のことですね。「ファウスト」の創刊は2003年の9月でした。懐かしいです。太田克史さん(編集部注:ファウストを立ち上げた編集者)と席を並べていた時代です。私が文芸第三に異動して来た時、初の女性部員だったんです。今は14人も部員がいますが、当時は部長を入れて5人でした。

廣田:たったそれだけの人数でやっていたんですね!

栗城:当時はメフィストとノベルスと単行本を刊行していました。本を作ること自体にはもちろん力を入れていたのですが、作ってから、その先の仕事は今ほどカロリーがかかりませんでしたから。

f6_kodansha008
廣田:作ってからの仕事というのはどういうことでしょう?

栗城:例えば、書籍の宣伝については、シンプルにやっても、自然に売れていく良い時代だったんです。編集が宣伝についてあれこれ工夫を凝らさなくても、しっかりとファンが付いていたので、それで回っていたのだと思います。その代わり、作品数は稼ぐということを必死でやっていましたね。

廣田:いつぐらいからそれが変わってきたのですか?

栗城:だんだんと変わってきた、という気はしますが、決定的だと思ったのは3.11の震災があった翌年ぐらいです。

廣田:何があったのですか?

栗城:震災は、きっかけに過ぎないのかもしれませんが、書店もずっと減り続けていましたし、「本当は本を読まなくても大丈夫だ」ということにみんな気づいたのかもしれません。震災後にフィクションなんかを読んでいる場合じゃないということもあったでしょう。

それから、もう一つ、小さい時からアニメも漫画もゲームも楽しんできた30代以下の人たちの中で、エンタメの対象として、「小説」という選択肢が欠けていってしまったのではないかと思うんです。

小説は、自分で能動的に読まなくてはならないので、非常にポジティブな姿勢が必要ですよね。しかも、今は文庫のレーベルが増えて、一体どれを読んだら良いかがわからなくなったということもあると思います。だいぶ前から、コミックに関しても同じ現象が起こっていました。コミックもたくさんタイトルがあってどれを読んでいいのかわからないという中で、「完結していてテッパンに面白いとわかっている」作品の方が、若者に売れるという現象があったのですが、小説も、それと似たようなことが起こっているのだと思っています。

ゲームもしなくてはいけないし友達とも交流しなくてはいけない。その中での余暇の奪い合いだと思うのですが、それには少し小説は重すぎると思う人が増えてきたのだと思います。

f6_kodansha004
同じ部署に23歳の編集部員がいるのですが、学生の時に本を読んでいたら、「本とか読んでんの?暇なんだね」と言われたのだそうです。

もともと、小説をたくさん読んでいる人は非常に少ないと思っています。本当のヘビーユーザの数は、いつの時代も変わらないと思うのですが、そのごく限られたヘビーユーザーにしても追いきれないほどの数の書籍が出版されているんですね。また、これを読んだ後に何読んだらいいかがわかりづらくなってしまっていると思うんです。この先生の本を読んだら、次はこの先生の本も読んでみるといい、というような、歴史性や関連性を意識した「系統だった読書」ができないという状況になっていると思います。

廣田:音楽の世界も全く同じことが起こっているように思います。やはりスマホの浸透によって、エンタメの可処分時間の取り合いになっているのかと思います。スマホがこれだけライバルとして侵入してきて、編集方針や戦略に変わったことはありますか?

栗城:ありますね。一つは、刊行のスピードを意識するようになりました。もともと「講談社ノベルス」と「講談社タイガ」に関して言えば、シリーズなので、定期的な刊行が望まれるものではあるんですね。しかし、読者は一年も次作を待っていられません。「いつ出るんだっけ?前の話どんなだったっけ?」ってなってしまうので、できれば年に2、3冊を定期的に刊行することを前提に作品作りをするようになりました。「講談社ノベルス」はものすごく厚いことが特徴の一つだった時期もあるのですが、厚いことで、ハードルが上がっているという話がありまして、一冊あたりの平均ページはかつてより少なくなっています。ちなみに今、他社のノベルスがなくなってしまったので、定期でノベルスを出しているのはうちだけなんですよ。

廣田:ノベルスの競合にあたるのはどこにですか?

栗城:祥伝社ノン・ノベルや徳間書店のトクマ・ノベルズ、光文社カッパノベルスは不定期には刊行しています。他には例えば、西村京太郎さんと赤川次郎さんの作品だけだけノベルスサイズで出すという社もあります。毎月出ているところはありませんから、競合はもうないということですね。

しかし、そうなると、当然書店の中でも、ノベルスの「棚」が無くなり、うちの書籍も、店の奥の探しにくい場所に置かれてしまうんですね。結果、ノベルスというジャンル自体が、だんだんと読者の目に触れにくくなってしまっています。今や、『十角館の殺人』を文庫で読んだ若い編集者にまで、二段組はキツいと言われてしまう状況です。ノベルス自体を、今も支えてくれているのは40代以上のファンだと思います。

  • 栗城浩美(くりき・ひろみ)
  • 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。株式会社講談社に入社後、幼児図書出版部で絵本の編集を経て、2001年に文芸第三出版部へ。当初は絵本との文字量と内容の落差に驚愕する。講談社ノベルス、単行本(主にミステリ)の編集にかかわる。2012年から文芸第三出版部部長。2015年、小説の新レーベル「講談社タイガ」の創刊を手がけた。
  • SHUSAKU HIROTA
  • Communication Designer / / dentsu
  • 放送局勤務を経て2009年に電通入社。企業のデジタル戦略的活用のお手伝いをしています。社内横断組織「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」ディレクター。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)がある。趣味は、読書と座禅。