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予算はなくても愛がある。『アイキャラ』プロデューサーの野望【前編】

2016年初頭、突如放送開始されたTV番組「アイキャラ」。出演者はバカリズム、Base Ball Bearの小出祐介、でんぱ組.incの夢眠ねむ。3人のゆるい会議から2次元キャラクターが誕生し、各界のプロ(通称「まきこまれ先生」)とタッグを組みながら現実世界でのデビューを目指す異色のバラエティだ。

誰もがクリエイターになれる時代に、「作る」のもう一歩先にある、どうしたら「愛される」キャラクターを作れるのか、番組を通して挑戦するアイキャラ。仕掛け人は日本テレビでプロデューサーを務める前田直敬さん。過去には音楽番組を中心に手掛けていたが、なぜ今、二次元コンテンツに着目したのだろうか。アイキャラの誕生秘話から番組に掛ける熱量、そして今後の展望について聞いた。

Interview by chamooi | Edit by Ryoh Hasegawa | Photos by Naomi Circus

2017.07.21[Fri]

2次元キャラ育成、現実世界でのデビューを目指す「アイキャラ」が生まれるまで


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ーー「アイキャラ」には視聴者をどんどん取り込んでいくインタラクティブ性があり、普通のテレビとは一味違う番組だと思っています。そもそも「アイキャラ」という企画はどういった経緯で生まれたのでしょうか。前田さんが以前から手掛けられている王道のバラエティ番組や音楽番組から着想を得たのか、あるいは全く違うところから突然出てきたのでしょうか?

前田:「アイキャラ」の素案自体は6年前からすでにありました。日本テレビのグループにVAP(※1)というレコード会社があり、僕はそこに3年半出向していたんです。VAPではいわゆるA&R(アーティスト・アンド・レパートリー※2)をやっており、日テレのドラマのサントラや『ALWAYS』の映画サントラを担当していました。他にアーティストも担当していましたね。あとはルパンが大好きなので、ルパンのリミックス集のようなものを自分で企画し、販路を開拓する仕事もしていました。

あるとき、VAPで僕が担当をしていたアーティストが『魔人探偵脳噛ネウロ』(※3)という日テレアニメの主題歌につくことになったんです。その縁もあり、僕の担当アーティストがCDをリリースするにあたり、アニメの作画担当の方にオリジナルジャケットを書き下ろしてもらいました。

書き下ろしてもらったキャラクターイラストについてウェブ上の反応を見ていると、「太ももがたまらない」、「ここのライン神だな」、「あの肌の質感が素晴らしい」といったユーザーのリアクションがたくさんあることにものすごくショックを受けたんです。「こういう細かいところまで喜んでもらえる、評価してもらえるんだ!」ということを知ったときに、楽しくなってしまいました。

それから日テレに戻ることになるのですが、ちょうどその頃DNDP(D.N.ドリームパートナーズ※4)が30分番組の企画コンテンツの募集を出していたんです。せっかくなら応募してみようということで、さきほどの経験で得たアイデアを形に落とし込んでいきました。当時企画として出していたのは、必ずしも現在の「アイキャラ」と同じではありません。スマホ上であるキャラクターの髪型はどちらが良いかを選んでもらったり、そうしたキャラクターが作られる過程にフォーカスする番組という企画です。それが約6年前になります。


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※1:VAP…日本テレビホールディングス株式会社の事業子会社の一つで、日本の映像・音楽ソフトメーカー。

※2:A&R(エーアンドアール)…レコード会社における職務の一つであり Artists and Repertoire(アーティスト・アンド・レパートリー)の略。 アーティストの発掘・契約・育成とそのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当する。

※3:『魔人探偵脳噛ネウロ』…松井優征による漫画作品。『週刊少年ジャンプ』にて2005年から2009年まで連載された。2007年、テレビアニメ化され、日本テレビで深夜に放送された。

※4:DNDP(D.N.ドリームパートナーズ)…NTTドコモと日本テレビ放送網の共同出資による、コンテンツ製作・投資のための事業組合。

企画が通るまでの5年を経て、時代が追いついた?

前田:そのときは残念ながら企画が日の目を見ることはありませんでした。社内には地上波の番組の枠にハマらないような、新しい視点を持った企画の募集がたまにあるのですが、この募集がかかる度に企画を出したものの、やはり通らなかったんです。

そして2年前、「日テレ☆ミライ枠」という、地上波で視聴率をとることだけを目的としない深夜枠を設けるという企画募集がありました。配信、イベント、マーチャンダイジングと展開の形は問わない、特殊な30分の枠を考えるというものです。6年前から数えると、おそらく3回目の挑戦だったのですが、それを提出したらようやく通りました。

ーー時代が追いついたというか。

前田:今から振り返ると、6年前に企画が通っていたとしても予算や技術の面からも、いま展開しているようなキャラクターの動きや仕掛けは不可能だったと思います。

ーーたしかに6年前といえば、初音ミクが盛り上がりをみせて、クリエイターが徐々に育ちつつあった成長期だったと記憶しています。だからこそ、今がタイミングとしてベストだったのかもしれないですね。

前田:おっしゃるとおりで、地上波でやるとすれば毎週30分の枠を成立させなければいけないという縛りがあります。6年前であれば、おそらく今のように原画、3Dモデリング、振付といった行程を毎週すべてやるのは無理だったでしょう。人脈という意味でも、実際にかかるコストという意味でも、タイミングは今の方が良かったと思っています。

ーー現在の「アイキャラ」に関わっているクリエイターの皆さんも、この6年の間にかなり経験値が溜まり、プロレベルでアウトプットできるようになったのではないか、と一視聴者として感じています。

前田:そうですね。いろいろなご縁に助けられています。

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“ボトムアップ”をブーストするための発火装置がテレビ

ーー今の時代、こうした企画はテレビでもネットでも、どこでも配信できるようになりました。それでも、あえてテレビをメディアにする意義が気になります。

前田:言い方は難しいのですが、僕はテレビを万能と思っていないと同時に、どこかでテレビを信じている節があるんです。今回の「アイキャラ」において、テレビは”ブーストさせるための発火装置”であり、テコの原理を使うための格好のコンテンツではないかと思っています。

僕は普段は音楽番組をメインで担当しているのですが、自分もCDを売る側にいたことも含めて、なんとなくの感覚があるんです。つまりまだ巷でザワザワもしていないアーティストが2分半地上波の番組で歌ったとしても、基本的には何も動かない。「夜のヒットスタジオ」「ザ・トップテン」があった頃は、そこに出演さえすれば、翌日にはCDのバックオーダーが1,000枚動くような良い時代でした。現在では音楽の趣味がかなり細分化されたこともあり、タイミングを見極めないことにはテレビに出ること自体にほとんど意味がなくなっています。

僕がいつも思うのは、「沸点寸前の段階でアーティストとご一緒することが、お互いに一番気持ちいい」ということです。双方にとってメリットがある。沸点を捕まえて一気にブーストさせることについては、やっぱり未だにテレビが一番強いという気がしています。僕はその感覚をそのまま「アイキャラ」に当てはめたかったんです。

企画を始めるときに一番気をつけようと意識していたのは、「ネット民の方々に嫌われてはいけない」ということでした。「アイキャラ」を始める前に、業界の有識者の方々と意見交換をさせて頂いたのですが、そのときも「とにかく気をつけろ」というアドバイスを頂きました(笑)キー局は権力の権化のように見られがちで、こういう趣旨の企画を出す時点でユーザーはファイティングポーズを取ってしまう可能性があるということを指摘して下さったんですね。

「僕らは本気です」ということを皆さんに分かってもらうためにも、いろいろな表現を熱意をもって丁寧に作らなければいけないということは当初から意識していました。僕らは合言葉に「ボトムアップ」を置いているのですが、ボトムアップで作っていくものを拡散する装置として地上波を使いたいと思っています。一個人のTwitterによって拡散させることも大事ですが、テレビの力によって「核融合」させるというか、一気に仕掛けるために地上波は痛快なメディアだと思っています。
キー局が作るキャラでも、”ネット”民に愛されるように

ーーたしかに「アイキャラ」は、いわゆる他の「オタク向け」の番組と比べると雰囲気が全然違う感じがします。もともと私もそういった文化圏にいるのですが、違和感なくいつものノリで入っていける番組という印象を持っているんです。”ネット”民に嫌われているどころか、愛着を持たれていると思います。

前田:そのことを僕らはすごく怖れていて、始まる前はすごくビクビクしていました。それでも始まってみればそんなことはなく、なんなら番組公式Twitterアカウントに「スタッフさん、大丈夫ですか?」と体を気遣ってくださるリプライが飛んできたり(笑)否定的な意見はほぼ見当たらないですね。

当初の構えとして、日テレの看板はなるべく出さないように心がけていました。4chに乗っかっているので日テレの番組であるということは明白なのですが(笑)、メンタルとしては日テレであることを隠し、ほふく前進しながらゲリラで行こうと思っていましたね。

ーーそれでも「アイキャラ」がすごいのは、看板をなるべく隠してスタートしているものの、看板を出す番組として認められるところまで来ていることだと思います。

前田:おかげさまでこの夏から、シーズン3がいよいよ動き出しました。「アイキャラ」で育ってきたキャラクターたちに、いよいよ日テレだからこそできるダイナミズムによって、羽ばたくきっかけを与えてあげられるタイミングまで来たのではないかと思っているんです。

仮になにもない状態から日テレでキャラクターを一体作っても、絶対にうまくいっていなかったはず。それでも「アイキャラ」で時間をかけて育ててきた何体かのキャラはある程度認知も高まってきましたし、支持してもらえる基盤はできてきていると実感しています。こうしたキャラクターたちが、ファンの方の応援を引き続き頂きながら、更にレベルアップしていけるようなきっかけをあげたい。それこそ彼らをブーストさせるような段階にいるのではないかと思っています。

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「ひらがな男子」が音楽番組に登場する日は来るか?

ーー「アイキャラ」では歌や踊りを絡めたキャラクターを展開されていますが、ゆくゆくはもともと前田さんが担当されている音楽番組に出演させるということも視野に入れているのでしょうか?

前田:そうなったら究極の理想ですね。ただ僕はいくつかの番組を担当していますが、そこに力技でねじ込んでも全然意味はありません。パワープレイをやっても、お互いに傷がつくだけ。なので先ほども言ったように、沸点間際で視聴者から求められている状態じゃないと出演させてもメリットがない。なのでやっぱり結局、大事なのは「民意」なんです。

たとえば、アイキャラFes内で行われた「ひらがな男子」(※5)のコーナーが始まると、熱狂的な空間に広がっていきました。でも頭のなかでは、もう一つブーストをかけてZeppクラス、求められる格好で武道館でやれたら最高だと思っています。とはいえ、いま仕掛けてもどうしようもない。認められ、求められて、広まってきた延長線上になければ意味がないんです。僕が担当している音楽番組に出演するアーティストの一組が「ひらがな男子」だったら面白いとは思いますが、やっぱりそれは求められているタイミングで打たなければ意味がありません。


※5:ひらがな男子…番組内で制作した2次元キャラクター。ひらがなの擬人化をテーマに、原画や設定案の公募が行われた。

ーーアイキャラFesでの「ひらがな男子」の熱狂ぶりには圧倒されました。

前田:僕らもイベントの際に、お客さんの盛り上がりにはビックリしました。これからも勢いを止めずにブーストをかけていきたいですし、ゲーム化に向けても動いています。

まだまだひらがなもたくさん残っているので、たまにTwitterで視聴者の反応をみていると、ユーザーの無限の想像力に驚かされます(笑)「〈ぬ〉と〈も〉が絡むときっとドキドキするだろうな」とか、「青い目の金髪の子は、きっと〈アルファベット男子〉で黒船に乗って来るんですよね」とか。こうした個人個人の想像が自由に働く余白のある、シンプルなテーマなので僕としても可能性は感じています。

  • 前田 直敬(まえだ・なおたか)
  • 日本テレビプロデューサー
  • 1974年富山県高岡市生まれ。
    慶應義塾大学卒業後1998年日本テレビ放送網(株)入社。
    制作に配属後、「THE  夜もヒッパレ」「LIVE MONSTER」「ベストアーティスト」「THE MUSIC DAY」など音楽番組を主に担当。2006年から3年半、グループ会社のVAPに出向。A&Rを担当した経歴も持つ。2016年、2次元キャラクターを育成する番組「アイキャラ」を企画プロデュース。自身のスキルを生かしながら、無の状態から音楽、映像、イベント、配信、マーチャンダイズへボトムアップ展開する異色の試みを続けている。
  • chamooi
  • Illustrator / /
  • ポップでフレッシュな作風が目印のイラストレーター。
    アーティストビジュアルからキャラクターデザインまで、幅広い領域を手掛ける。