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そもそもメディアは誰のものなのか?編集者が担うものに必要なこと【後編】

イノベーションプラットフォームとしての出版社

若林:ちょっと前ですが、紙の「竹尾」の歴史を綴った本を見ていたんです。それはそのまんま戦後のグラフィックデザイン史でもあって、いま見ると尚壮観なんですが、改めて見てみると、それはグラフィックデザイナーと竹尾さんのみならず、印刷所や製紙会社を含めた、グラフィック表現をめぐるイノベーションの歴史なんですね。かつて、大手の出版社は、折にふれて美術全集なんかを刊行していたんですが、今にして思うと、それって最先端のクリエイターとともに印刷や紙、インクの技術革新に一役買っていたものだったんだって気づきます。もっとこういう表現がしたいというクリエーターの想いと、印刷の技術革新をつなげるところに、出版社が巨額を投資をしていたというわけです。つまり、その時代は、出版社がある種のプラットフォームになっていて、そこに 技術者やクリエーターが入ってくることで、イノベーションが引き起こされていたんです。商売のことだけ考えていれば、そんなこと、本来はやらなくていいことだったのかもしれないけれど、おそらく当時、それが出版社が自分たちに課した使命だったんだと思います。出版社が最前衛のクリエーターたちと密接にかかわっていき、そのアイデアを実現していくことで、新しいものが生まれてくるという側面が当時、確かにあって、僕は景気が悪くなったからといって、そうした役割から降りるという選択肢は本当に良かったのかと疑問に思っています。そうなると出版のなかでは何もイノベーションが起きなくなってしまいますから。

ハリウッドは、新しい才能があると、とにかくやってみるという場所になっています。 例えばジェームズ・キャメロンやマイケル・ベイみたいな人が、めちゃくちゃなアイデアを持ってきても、必死で実現しようとして、みんなで新しいことをやっていくことで、ハリウッドはどんどん先に進んでいきます。それはエンタメの技術においてだけでなく、Photoshopやピクサーを生み出してきたということからもわかるようにもっと広い意味でイノベーションのドライバーとして、ハリウッドの役割があるということなんだと思います。

本当は出版だけでなく、ウェブ業界も、そういうプラットフォームにならないといけないくて、 サプライヤーにいかに新しいことを考えさせるか、その対価をきちんと払うか、そういうことを通して、そのマーケット自体を活性化していくことが大事なんです。でもそれを誰もやらないなんですよね。

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廣田:広告会社で雑誌をやっている人たちにもそういう意識を持ってもらうことが重要ですね。

若林:それは本当に必要で、今はサプライチェーンのダンピングしかしなくなっていますし、だいたい、いまの会社は、取引先を「下請け」としか考えず、自分の都合ばかりを言うことが多すぎます。それはとてもいびつで、歪んだメンタリティです。関わる人すべてが下請けで自分の都合通りになると思ってるような人たちといったい誰が一緒に働きたいですかね。

廣田:アートに効率化は通用しないですからね。

若林:微力ながらも新しい人に投資して、彼らに付加価値を作っていくことを編集部としてやっていかないととは思っています。この話は実際のマーケットがないと理想論になってしまいます。メディアのマーケットは相補的関係で成り立っていて、サプライチェーンの質で読者は決定されるし、読者の質で、広告の質が決まるといういう循環があります。自分たちを支えてくれている供給システムをいかに健全でアクティブなものにするかをまず考える必要があって、そこはぼくらに決定権がある範疇なので、しっかりやらないとな、と思っています。

廣田:なるほど。今、効率化の名の下に、いろいろなものが悪循環に入ってしまっている原因が少しわかった気がします。メディアや編集者の本来の存在意義を見直し、何をどう振る舞えばいいのか、いろいろと示唆に富む話を伺えました。僕ら広告人にとっても、何のために広告をやっているのか、非常に考えさせられる話だと思います。まだまだ、お話を伺いたいところではありますが、お時間がきましたので、この辺でおしまいにしたいと思います。今日はありがとうございました。

若林:いいえ。どういたしまして。

  • 若林恵(わかばやし・けい)
  • 1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。大学卒業後、出版社平凡社に入社。『月刊 太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般に関わる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立し、以後、雑誌、フリーペーパー、企業広報誌の編集制作などを行ってきたほか、展覧会の図録や書籍の編集も数多く手掛ける。また、音楽ジャーナリストとしてフリージャズからK­POPまで、広範なジャンルの音楽記事を手掛けるほか、音楽レーベルのコンサルティングなども。2011年から現職。趣味はBOOKOFFでCDを買うこと。
  • SHUSAKU HIROTA
  • Communication Designer / / dentsu
  • 放送局勤務を経て2009年に電通入社。企業のデジタル戦略的活用のお手伝いをしています。社内横断組織「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」ディレクター。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)がある。趣味は、読書と座禅。