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そもそもメディアは誰のものなのか?編集者が担うものに必要なこと【前編】

情報のハブになる窓際のおじさんの話

若林:これは聞いた話ですが、ある大手出版社で、さる著名な時代小説家の担当をしてた編集者ってのが、それ以外はほとんど仕事をしていない、ちょっと窓際っぽい人だったということを聞いたことがあります。会社としては、ある意味生産性の低い社員ではありますが、その大作家先生との関係は、その人あってのことなんですね。だから、若いバリバリやる編集者に変えてしまうことができないわけです。編集者という仕事は、自分が担当する筆者とウマが合うといったことがとても重要な仕事なんです。という意味でいうと、編集者の価値というものは、なかなか一元化できないですし、色んな種類の色んな書き手が世の中にいることを思えば、社内の編集者には多様性があったほうがいいんです。

それは何も出版社に限らない話かもしれなくて、MITのメディアラボの研究でも、社員の会話のログをとる機械を社員全員につけさせて、組織内で誰が情報共有のハブになっているのかを研究するというのがあります。社員の中で誰と誰の話が長かった、といったことを記録するんです。

廣田:最近翻訳が出た「ソーシャル物理学」の話ですね。

若林:そう。その研究で面白かったのが、売上の高い、つまり生産性の高い社員が、必ずある人とコミュニケーションをしていることがわかったということなんです。で、この「ある人」っていうのが生産性が高いかというと、実はたいしたことはないんです。ぼくの想像ですが、要は、この人、たぶんオジサンなんですが、ずっと喫煙所にいるんですよ(笑)。で、日がな、社内の人と、なんかしらだべってるわけです(笑)。けれども、その人がハブとなって、色んな情報が「生産性の高い人たち」に流れていっているということなんですね。いますよね、常に喫煙所にいてサボってる人。 こいつ何やっているんだっけ?というような。でも案外、そういう人がいると、組織の中に情報が流れたりするんですね。で、もしかすると、その人がいなくなると、全員の生産性が落ちてしまう、ということが起きるのかもしれない。

ぼくは、それは、いかに社会や組織のなかに、多様性をもたせるか、ということなんだと思います。ビシバシプレゼンしてる有能なやつらだけの組織では、おそらくは上手くいかないんです。で、そういう「喫煙所のオジサン」みたいな存在は、さっき言った「暇人」の話にもつながっていて、要は、メディアってのは、喫煙所にいるおっさんなんですよ(笑)。色んな話を拾っては、誰かに繋いで、と。それだけを日がなやってるわけです。そうやって、いろいろ見つけてくる 暇人を産業化したのがメディア産業なのである、というわけなので、ぼくは、基本、ずっと喫煙所にいるわけです(笑)。

廣田:ただ、メディアも、ビジネスに取り込まれると、ややこしくなりますよね。求められるものはどうしても、見られる量になるので、速報的なものや扇情的なものになってしまいますよね。PVとは違う指標が大事だという議論は昔からあっても、結局、PVが一番気にされているし。ビジネスの文脈になった途端、暇がなくなってしまう。

若林:そうですね。難しい問題です。ぼくが、そもそもこうやってメディアって何なんだっけと考えなくてはならなくなったのも、メディアがビジネスとしてどうなるのか、というところに端を発するわけです。ただ、ぼくが思うにいたった「メディア=ヒマ人説」に則って考えていくと、どうもそれを価値化する指標というのはなかなかないもので、その価値は、終局的には、時間が決定するんだろうとぼくは思っていますね。つまり、メディアというものの価値や面白さを感じて、自分もそれをやってみたい、やってみようとか思う人が出てくれば、それは価値があったということになるのかな、という気がしています。ある写真家の方に、こんなことを言われたことがあります。「メディアなんてのは、送り先のわからない手紙を出してるようなもんじゃない?」。ロマンチックな話のように聞こえるかもしれませんが、そんなもんかな、と思います。誰にも届かなきゃ、なくなります。届けば、細々とでも続きます。それでいいんだろうと思います。

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本はこんなにたくさんなくてもいい?

廣田:職人と商人がいたときに、ひたすらいい物を作ろうとするのが職人だとすれば、商人は売るために、その社会的メリットを、時として数値化して説明しなければならない。作家と編集者もそうで、作家は作家の論理があり、編集には編集の論理があり、営業は営業の論理があり、全然違う仕事をしなければならないんですよね。

若林:もしかすると、メディア産業がデカくなりすぎたのかもしれません。 本も、ビジネスとして成り立たせるために、10万部とか、100万部売ることが重要になってしまっているんだけど、本来は、2000部とか、3000部とかで構わないものだったのかもしれません。 むしろ、3000部売れる規模の市場を支えられるようなやりかたを考えないといけないのかもしれません。それができないと本末転倒になってしまう。 「とにかくPVとろうぜ!」みたいな話が出てくると、もうそんなのやめようぜと思いますね。

廣田:フランスのルソーみたいに、一人のちょっと変な人が、ひとりぼっちで考えて書いた、ちょっと変わった詩みたいなものが、最初は少数の人に届いて、それがいまではフランスの教科書に載る、みたいなことをどう実現するか。

若林:暇人が書く本も、本来、そんなにたくさんはいらないと思います。だいたい持続的な才能をもてる人間なんて、そもそもそんなにいないし、そんなに数は必要ないんだと思うんです。みんな、そんなものに憧れるよりは、真面目に働いたほうがいいと思うんです(笑)。とはいえ、頭の切れるやつのビジネスモデルは、一年か半年で消費されて、タイムスパン的にはすごく短いですよね。一方で、 ほかにはないものすごい洞察をもった誰かが、よくわからないことを一生懸命考えたものは射程は長いはずです。大事なのは、その、すごい洞察を支える仕組みをどうつくるかで、その意味でいうと、日本は、ビジネスの世界でも、カルチャーの世界においても、そういう人間を育てて守っていく仕組みをつくるのはうまくない気がしますし、それをやれる人間がとても少ない気がします。

  • 若林恵(わかばやし・けい)
  • 1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。大学卒業後、出版社平凡社に入社。『月刊 太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般に関わる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立し、以後、雑誌、フリーペーパー、企業広報誌の編集制作などを行ってきたほか、展覧会の図録や書籍の編集も数多く手掛ける。また、音楽ジャーナリストとしてフリージャズからK­POPまで、広範なジャンルの音楽記事を手掛けるほか、音楽レーベルのコンサルティングなども。2011年から現職。趣味はBOOKOFFでCDを買うこと。
  • SHUSAKU HIROTA
  • Communication Designer / / dentsu
  • 放送局勤務を経て2009年に電通入社。企業のデジタル戦略的活用のお手伝いをしています。社内横断組織「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」ディレクター。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)がある。趣味は、読書と座禅。